1.プロジェクト実施の背景

(1) アセアン地域における高等教育セクターの現状と課題

ASEAN加盟各国の経済は、1997年のアジア通貨危機により打撃を受け、一時的に成長が鈍化したが、その後各国ともに順調な回復を見せ、過去10年間にわたり高い成長率を維持しながら拡大している。
また高い経済成長とともに、各国において産業構造と企業活動の高度化が進んでいる。例えば、シンガポール・タイ・マレーシア・フィリピン・インドネシアのASEAN先発加盟国では近年、自国市場の拡大や市場ニーズの多様化、産業構造の高度化や企業活動のグローバル化の進展により、域内企業の活動の高度化が進んでいる。また現地企業の中には、自前で高度技術を駆使した研究活動に乗り出すものも現れてきている。ベトナム・カンボジア・ラオスといったASEAN後発加盟国においても、外国資本の導入による産業の拡充・多角化が進んでいる。こうした変化に対応するために、域内の大学によるグローバルな高度産業人材の育成と産学連携による研究活動の充実が必要となっている。
また、ASEAN地域では、大気環境汚染、気候変動などの国単位では解決のできない国境を越えた課題や、洪水、防災、低炭素エネルギーなど域内各国が共通に直面する課題が深刻化しており、これら課題に国際的に経験・知見を共有して取り組むことの重要性が増している。
こうした産業の多角化やASEAN地域共通の各種課題に対応するためには、高等教育機関によるグローバルな高度産業人材と研究活動の充実が必要であり、各国政府は高等教育セクターの強化をその重点政策に掲げている。結果として、当該地域各国の高等教育セクターは過去10年で量的には急速な拡大を達成したものの、質の維持・向上を伴っておらず、各国の拠点大学と呼ばれる大学においても高位学位を保持した教員の割合が低いことや施設機材の未整備などにより、教育・研究の両面においてその質に問題を抱えている。その結果、引き続き、ASEANを含む東アジア地域から多数の優秀な人材が欧米先進国に流出している。例えば2007年時点で、世界全体の留学生総数約280万人の65%(約180万人)が欧米に留学しており、そのうち25%の45万人が東アジア・大洋州地域からの留学生となっている。

(2) 当該地域における高等教育セクターの開発政策と本事業の位置づけ

ASEAN先発加盟国政府は経済の先進国化を達成するためには、産業の高付加価値化や高度産業人材の育成が不可欠であると認識し、これに貢献する高等教育の充実を重要政策に掲げている。
例えば2020年までの先進国入りを目指すマレーシアは、「第10次マレーシア計画(2011-2015年)」において、高付加価値の知的産業の育成と産業界のニーズに合致した分野横断的な科学技術の研究能力を向上することが重要であり、そのためには科学技術分野の大学院生の増加や、産学連携の研究体制の構築が必要であるとしている。
タイも、「第11次国家経済社会開発計画(2012-2016)」において国際競争力強化のための高付加価値の製品開発や産学連携等によるR&Dを担う人材の育成が重要であるとし、人口1万人あたりのR&D人材を、15人に増やす目標を掲げている。
経済指標やイノベーションの発展度合いではマレーシアやタイに及ばないインドネシアとフィリピンの2か国も、経済成長のためには科学技術の振興が不可欠との認識に立っている。インドネシア政府は、2011年に「経済開発加速化・拡充マスタープラン」を発表し、2014年までにGDPの1%をR&D予算として確保し、科学技術分野の博士号取得者を7千人から1万人育成することなどを目標に据えるなど、イノベーションの必要性とそのための科学技術分野での人材育成を重点政策に位置づけている。
フィリピン政府も2009年に策定した「第二次国家高等教育アジェンダ」において、国際競争力強化に向けた高等教育機関の研究能力向上、研究成果の産業界への普及促進などを政策目標として掲げ、研究活動そのものや研究成果の海外での発表に対する奨学金や助成金の供給、重要分野における大学院プログラムの充実等を行うこととしている。
ベトナム・カンボジア・ラオスといったASEAN後発加盟国においても、外国資本の導入による産業の拡充・多角化が進んでいる。例えばベトナムでは、製造業も含む工業の拡充がすでに大きく進展している。また、これまでは縫製業や観光業を主たる産業としていたカンボジアにおいても、2010年後半から日系製造業企業の進出が進み、今後さらなる産業の多角化を通じた経済成長が見込まれる中、高度産業人材の育成が重点課題の1つとなっている。
また、東南アジア諸国連合(ASEAN)は、「ASEAN Plus Three (APT) Plan of Action on Education 2010-2017」において、「教育機関や教育省との協力、ネットワーク作り、調査研究を進める」、「アセアン大学ネットワーク(AUN)を通じて、大学間の連携を強化し、さらにAPT諸国の大学間の単位互換を進め、高等教育を進める」、「APTの教員の調査研究や交流をサポートする」、などを重点協力分野として掲げている。

2.プロジェクトの概要

(1)上位目標
東南アジア地域において、産業の高度化とグローバル化、ならびに地域共通課題 への取り組みが促進される。

(2)プロジェクト目標
メンバー大学および本邦支援大学 の連携による高度な研究・教育実施体制が整備される。

(3)めざすべき成果と活動
成果1:メンバー大学と産業界、地域社会 との連携が強化される。
1.1メンバー大学の教員を対象に産学連携促進手法の習得研修を実施する。
1.2メンバー大学の若手教員を対象にして工学マネジメント(MOT)コースの受講を促進するとともに短期特別コースを開講する。
1.3メンバー大学教員を対象に、産業界の技術動向を踏まえた教育プログラムの形成・運営セミナーを開催する。
1.4事務局内に産学連携促進アドバイザリーチームを設置し、メンバー大学に対して、産学連携促進活動の総合的な助言を行う。
1.5域内産業界に対し、メンバー大学を紹介する活動を行う。
1.6メンバー大学教員を対象とした産学連携共同研究を実施する。
1.7メンバー大学の若手教員を対象に、本邦企業におけるインターンシップまたは短期訪問を実施する。
1.8地域会議において産業界や地域社会から講師を招聘し、メンバー大学と産業界・地域社会との連携を強化する。

成果2:地域共通課題解決に資する研究活動を実施する体制が整備される。
2.1分野ごとに地域会議を開催する。
2.2メンバー大学教員を対象に、本邦支援大学教員も参加した地域共通課題に係る共同研究を実施する。
2.3メンバー大学による外部研究助成事業の獲得を支援する。

成果3:メンバー大学の研究と教育の能力が向上する。
3.1メンバー大学の若手教員を対象に、学位取得プログラムを実施する。
3.2メンバー大学教員を対象に、本邦支援大学教員も参加した共同研究プログラムを実施する。
3.3プロジェクト活動で博士号を取得したメンバー大学の若手教員を対象に、本邦/域内における研究活動支援プログラム(本邦/域内リサーチ・フェロー・プログラム)を実施する。
3.4本邦で博士号を取得したメンバー大学の若手教員を対象に、本邦支援大学教員も参加した共同研究プログラム(師弟関係強化共同研究プログラム)を実施する。

成果4:メンバー大学および本邦支援大学の組織間および教員間の学術ネットワークが強化される。
4.1本邦教員派遣プログラムを実施する。
4.2メンバー大学教員を対象に本邦支援大学またはメンバー大学を訪問する本邦/域内短期研修・研究プログラムを実施する。
4.3ASEAN工学ジャーナルを発行する。
4.4事務局において、メンバー大学および本邦支援大学関係者に関するデータベースの拡充と活用を促進する。
4.5メンバー大学および本邦支援大学による国際共同教育プログラムを形成する。
4.6サンドイッチ博士プログラムのジョイント・プログラム認定を促進する。
4.7メンバー大学および本邦支援大学教員による講義ノートの公開・共有を促進する。

3.プロジェクト実施体制

(1)AUN/SEED-Net事務局

(2)アセアン10カ国の教育関連担当省庁

(3)メンバー大学(26大学)
チュラロンコン大学、モンクット王工科大学ラカバン、ブラパ大学、カセサート大学、タマサート大学、ブルネイ工科大学、ブルネイダルサラム大学、カンボジア工科大学、ガジャマダ大学、バンドン工科大学、インドネシア大学、スラバヤ工科大学、ラオス国立大学、マラヤ大学、マレーシア科学大学、マレーシアプトラ大学、マレーシア工科大学、ヤンゴン工科大学、ヤンゴン大学、デラサール大学、フィリピン大学ディリマン校、イリガン工科大学、ナンヤン工科大学、シンガポール国立大学、ハノイ工科大学、ホーチミン市工科大学

(4)国内支援大学(14校)
北海道大学、慶應義塾大学、京都大学、九州大学、政策研究大学院大学、芝浦工業大学、東海大学、東京工業大学、東北大学、豊橋技術科学大学、東京大学、名古屋大学、早稲田大学、大阪大学

(5)運営委員会
上記1.~3.の他、ASEAN事務局代表、AUN事務局長、国内支援大学代表、外務省代表、JICA代表から構成。